
「Sakana AIは学術研究のイメージが強いけど、どうビジネスにつなげるの?」━━Sakana AIでは「Applied Team」が本格始動し、最先端AIの社会実装に取り組んでいます。その内実を、2名のチームメンバーに聞きました。
概要
2024年、Sakana AIは、自然界の摂理に学ぶユニークな発想などを元に、研究開発で世界に先駆ける多くの業績を生むことができました。2025年、世界トップレベルの生成AI技術を社会実装するため、Applied Team(事業開発本部)を始動。国内外の主要パートナーとの連携が動き出し、業務のあり方を変えるような大きなインパクト創出を目指すプロジェクトが立ち上がっています。
現在の注力領域として、金融領域や防衛・公共領域へのソリューション開発に取り組んでおり、Applied Research Engineerは最先端の生成AIやAI Agent技術を用いて日本の最重要課題の解決に長期的な視点を持って挑戦しています。チームには、国内屈指のテック企業や各業界をリードしてきたプロフェッショナルが結集し、Applied Teamだけでも現在約35名の規模で活動しています。
本記事では、Applied Teamについて知っていただくことを目的として、AI研究の社会実装に挑む二人のメンバーのインタビューを掲載します。最先端のAI研究に日々触れながら、大きな期待をかけていただいているお客様と向き合いつつ、エンジニアとプロジェクトマネージャーが二人三脚で開発を進める様子の一端を知っていただければ幸いです。
インタビューイー:
|
加納 龍一 Ryuichi Kanoh Applied Research Engineer
大学・大学院で観測天文学を専攻。前職では株式会社ディー・エヌ・エーにて、ゲーム/ライブストリーミング/オートモーティブなど多岐にわたる事業領域での機械学習システムの社会実装を推進。また、研究活動にも精力的に取り組み、機械学習分野におけるトップカンファレンスであるICLRやICMLに4年連続で主著論文が採択されている。基礎研究と社会実装の両輪の力を発揮しながら挑戦を行える環境に魅力を感じ、2025年4月にSakana AIに入社。Kaggle Master。
|
|
中川 貴徳 Takanori Nakagawa Project Manager
2014年に新卒で三井住友銀行へ入行。法人営業を経験後、2016年より三井住友フィナンシャルグループのITイノベーション推進部(現・デジタル戦略部)に参画。同部では、生体認証スタートアップ「株式会社ポラリファイ」の事業立ち上げや新規プロダクト開発をプロダクトマネージャーとして牽引。金融ビジネスとテクノロジーの双方に精通し、その知見を活かしてSakana AIへ参画。Applied Teamのプロジェクトマネージャーを務める。
|
━━Applied Research Engineerの加納さんに伺います。4月に入社されてから、どのようなプロジェクトに関わってきましたか。
加納:Appliedチームはまだできたばかりのため、入社してからまだ3ヶ月ほどの私でも、エンジニアメンバーとしては比較的古参です。そのため、金融・公共領域ともに、立ち上げから広く関わってきました。一番最初に取り組んだのは、金融関係のプロジェクトの先駆けとなるプロトタイプの開発でした。
最近では、公共事業関係のいくつかの取り組みをリードしています。まだ発表できる段階にないものが多いですが、金融領域と同じくSakana AIへの期待は高く、かつ、まだAIが多く入り込む余地がある領域ですので、やりがいを感じています。
━━なぜSakana AIのApplied Teamへの参画を決めたのでしょうか。
加納:前職では、タクシー配車アプリや、ライブストリーミングアプリのシステム開発といった多くのユーザーに使っていただくBtoCサービスの開発を経験しました。また、並行して社会人博士課程にも通い、AIの研究で学位を取得しました。そうした背景もあり、「基礎研究と社会実装の両輪を高いレベルで兼ね備えた人材になる」というのが私のテーマでもあります。その意味で、研究開発を強みとしつつ、事業化への注力を始めたばかりのSakana AIは、自己実現のイメージに近かったのかなと思います。
━━Sakana AIの研究成果にはどのような観点からポテンシャルを感じていますか?
加納:個人的には、とくに「オープンエンド探索」と呼ばれる、新規性を探索し続ける技術に可能性を感じています。AI ScientistやDarwin Gödel Machineなど、Sakana AIの研究にもこの要素は多く含まれています。
今後AI応用が進み、既存業務は効率化・自動化されていくと思います。これは人間のワークフローの「置き換え」に相当しますが、その先に来るのは「アイデアの創出」や「将来のあり得る可能性や見通しを列挙する」といった、人間の思考の「発散」をサポートするような観点ではないでしょうか。例えば企業の成長戦略の議論や方針策定、脅威の想定やそれに対する対策の立案など、様々なユースケースに、Sakana AIが得意とするオープンエンド探索の知見が活かせるのではないかと思います。
━━Sakana AIの職場としての特徴は何があるでしょうか。
加納:まず、ビジネスチームのユニークさがあると思います。Sakana AIの特徴として、金融や公共領域など、特定のドメインに集中する覚悟を決め、その領域のドメインエキスパートを積極的に採用しチームの一員となってもらっている点があります。私たちエンジニアはAIを導入するドメインや業務内容に関しては素人であり解像度が低いところからのスタートになるので、その分野の専門家のフィードバックは不可欠です。Sakana AIには内部に専門家がいるため、改善のループを毎日回すことができます。
また、エンジニアにとって最新のAI研究の動向にキャッチアップすることはとても重要です。その点、Sakana AIには第一線の研究者が多くいます。彼らからいち早く研究動向を聞くことができますし、別のメンバーの事例ですが、エンジニアがResearchチームと協働で開発に当たることもあります。このように事業専門性とR&Dの強みが社内に揃っているスタートアップの環境は、世界で見ても非常に珍しいのではないかと思います。
加納氏による勉強会資料(2025年7月8日実施)。エンジニアの目線から、Sakana AIの研究を含むAIの注目動向をまとめている。
━━エンジニアとして、どのような方がSakana AIで仕事に向いていると思いますか?
加納:Sakana AIのApplied Teamはまだできて間もない組織であり、今の環境はスタートアップそのものです。ひとりひとりが裁量を持ちながら主体的に考え、動き、組織の成功のための努力をすることでチームはものすごい速度で成長しながら前に進んでいます。そんなダイナミックな日々を楽しめる方が向いているのではないかと思います。
また、Sakana AIには研究のイメージがあると思いますが、Applied Teamで働く上では、論文執筆などの研究実績は必要ありません。Applied Teamのミッションはアカデミックな研究ではなく、社会実装によりユーザーに価値を届けることです。そのうえで、Sakana AIでは今、チャレンジングな案件がたくさんあります。それらに泥臭く挑戦してみたい方に、ぜひ参画いただければと思います。
━━次に、プロジェクトマネージャーの中川さんに伺います。今はどのようなプロジェクトに関わっていますか?
中川: 私は現在、金融業界のAI導入に取り組んでいます。現時点では、企業のお客様宛の提案などに関わる業務の一部を自動化するプロジェクトです。これは、Sakana AIが昨年実現した、研究論文を書き上げる「AI Scientist」を、いわゆる「文系」の仕事でも実現するという狙いがあります。自分はエンジニアと協力しながら、クライアントとのコミュニケーションを担っています。
━━中川さんはいつ頃からAI技術に注目されていたのでしょうか。
中川: 私は経済学部の出身なのですが、大学生の頃からプログラミングをしていました。3年生くらいの頃、世の中は「データサイエンス」がもてはやされていて、私もインターンとして自販機のデータや医療データなどの分析の仕事をしていました。
新卒で入った銀行では、フィンテックのブームもあり、AIスタートアップの立ち上げなどに関わりました。例えば、生体認証技術は当時、年間で10倍くらい精度が伸びました。毎年、技術が全くレベルの違う段階に進歩していくのがとても刺激的で、そのなかでビジネスを考える面白さを味わいました。
━━Sakana AIにジョインした経緯はどういったものだったのでしょうか。
中川: 米国にMBA留学したのですが、その頃からAIをキャリアの中心にすると決めていました。2022年にAIの国際カンファレンス「NeurIPS」に参加したのですが、それがまさにChatGPTのリリースのタイミングでした。これは面白いと思い、MBAのケース課題を解くプログラムを書いて、教授の協力のもと性能を測定したりしていました。2023年当時はコンテクスト長の短いGPT-4しかなかったのでなかなか大変でした(笑)
そうしたなか、Sakana AIでインターンをする機会があり、毎日リサーチャーと話していたことが非常に刺激的だったため、入社を決めました。
他にもAI企業の選択肢はありましたが、Sakana AIという会社がとにかく面白いと思ったんです。世界的な研究者であるDavid Ha(CEO)やLlion Jones(CTO)、そして日本の地の利を生かして市場開拓を描ける伊藤錬(COO)という創業メンバーがいることもそうですし、AI業界を取り巻くタイミングを含めて「一回しか起こらない事象」だと思いました。
入社当初、Sakana AIのビジネスメンバーは自分を含めて2名しかいませんでした。事業の戦略立案、顧客営業を含む事業開発から、プロダクトマネジメントまで、0→1(ゼロイチ)で全部やるような立場でした。今はメンバーが増えて、15人くらいのチームで活動しています。
━━今後、金融領域へのAI導入をどう進めていきますか?
中川: Sakana AIのリサーチャーが作ったものをビジネスでどう使うか、を常に意識しています。普段からランチを食べたりしながら情報を仕入れていて、使えるものだけでなく、「これはまだビジネスには繋がらないかも」というものも含めて、現実的に判断することが大事だと思います。
金融にAIをどう導入していくかに関しては、足元では、現実世界でアウトプットが必要とされていることを考えた方がよいと思っています。成果物に関するコンセンサスがあるためです。これは「AI Scientist」における「科学論文」と一緒ですね。
しかし、より深いところでは「人手が減ると良い」というよりは、「金融の世界がどう変わるか」を考えると面白いと思います。例えば、数週間かけていた提案が2時間でできたらどうなるか。トランプ大統領が相互関税を発表した2時間後に提案ができる、みたいなことになるわけです。
このように、世の中の大きな意思決定をAIがドライブしていくのだと思います。つまりAIの主戦場は、これからどんどん高いレイヤーに上がっていく。例えば「10年間、産業を見続けた専門家レベルの判断」をAIができるようになるかもしれません。
━━社内のエンジニアとはどのように日々仕事をしていますか?
中川: Sakana AIのApplied Teamの最大の特徴は、加納さんの話にもありましたが、エンジニアと業界知識を持つビジネスのエキスパートが隣り合って仕事していることです。ドメインの知識を持った人が、エンジニアにいかに早くフィードバックするかが、仕事のスピードに大きく関係します。今朝もお客様にプレゼンしてきたばかりなのですが、1週間前にできていたものと今日見せるものが全然違うわけです。これは、社内でPDCAが回るからこそです。
たまたまではありますが、現在のビジネス側のいわゆる「文系」メンバーの8割は、自分を含めてコードが書けます。エンジニアと仕事をする時に、手元でもVisual Studio Codeを立ち上げて、自分で直すことも日常です。このような体制が、非常に速い開発を可能にしていると感じます。
お客様と日々対面しつつ、社内では世界最先端のAI研究を切り開くリサーチャーたちと日々意見交換もしながら、エンジニアとプロダクトを作り込んでいく。非常に刺激的な職場だと思います。また、AIの分野で最先端の仕事をするなら、こういう体制が必要なのだろうと感じています。
募集要項
Sakana AIのApplied Teamでは、今回の2名を含む多彩なメンバーが、最先端のAI技術の社会実装に取り組んでいます。引き続きメンバーを募集していますので、ご関心のある方は、ぜひ当社の募集要項をご覧ください。