【イベントレポート】Applied Engineer Open House 2025:金融・防衛の難関課題に挑む、AI社会実装の最前線


Sakana AIは2025年8月7日、当社初となるApplied Engineer向けのOpen Houseイベントを実施。現地で約70名、オンラインで200名を超える方のご参加をいただきました。


2025年8月7日、Sakana AIは初となるApplied Engineer向けのOpen Houseを開催しました。現地で約70名、オンラインで200名を超える方にご参加いただき、Appliedチームでのキャリアにご興味のある方や、AI技術の最前線に触れたい方に向けて、Sakana AIのビジョンや事業、そして働く環境を社員の生の声を通してお届けしました。Q&Aセッションでは50問を超えるご質問が寄せられるなど高い関心をお寄せいただき、懇親会も含め、非常に熱気のあるイベントとなりました。

本記事では、イベント当日の様子をレポートします。私たちが取り組む金融・防衛という日本の最重要課題、世界トップクラスのResearchチームとの連携、そしてSakana AIのAppliedチームで働くイメージが、少しでも伝われば幸いです。

なお、イベントで用いた登壇資料は、こちらで公開しています。併せてご覧ください。


日本にフロンティアAI企業を創る

イベントは、共同創業者兼CEOであるDavid Haのトークから始まりました。10年以上前にカナダから来日し、ディープラーニングの黄金時代にGoogleで機械学習の最先端研究に没頭した彼が、なぜSakana AIを創業するに至ったのか、その背景が語られました。

Davidは、世界のAI研究開発がこれまで米国と中国に集中してきた現状に触れ、アジアを代表する民主主義国家として日本もまたAI技術の発展に貢献し、その世界的な議論に参加すべきだとの考えを述べました。そして、日本国内だけでなく世界中で話題となるようなAI技術を日本から生み出し、日本が再び世界のAI開発における重要な一翼を担う力となることを目指してSakana AIを創業したのだと説明しました。

Sakana AIの現在のビジネスモデルは、日本の大企業や公共セクターのお客様にAIプロダクトを提供することに重点を置いています。これは、多くの分野に事業を広げられる大企業とは異なり、スタートアップである私たちが、限られたリソースの中で社会に最も大きな価値とインパクトをもたらすための戦略的判断です。

その一方で、Sakana AIはオープンな研究開発と社会との対話を重視し、研究論文やソースコードの形で、オープンソースコミュニティや広く社会へ知見を還元することを常に心がけています。その背景には、AIの発展は世界的な協力によって成り立つものであり、知見の共有は分野全体の進歩に不可欠だという信念があります。そして、日本の企業として質の高い研究成果やコードを発信し続けることが、日本がAIの世界で重要な存在であり続ける上で極めて重要だと考えている、とDavidは語りました。


創業の経緯を説明するCEOのDavid Ha


「日本の課題解決」への本気度

続いて、事業開発をリードする共同創業者、伊藤錬(Ren Ito)COOが登壇。Sakana AIがR&Dだけでなく、ビジネスの現場でいかにして価値を生み出そうとしているのか、その情熱とビジョンを語りました。

伊藤は15年間外交官としてキャリアを積んだ後、高校の同期に誘われてスタートアップに参画し、その成功を経験しました。その中で「日本の技術を、もっと世界に届けたい」「真のグローバル企業を日本から作りたい」という想いを強くし、David HaやLlion Jones(CTO)と共にSakana AIを創業したと言います。

海外からリモートで参加したCOOの伊藤錬:「シリコンバレーに負けないR&Dチームが東京にあります。これは私たちの誇りですが、まだ半分でしかないと思っています。ChatGPTのようなAIをただ作るだけで、日本の課題は解決できるのでしょうか。例えば、銀行の融資プロセスを本当に自動化するには、その会社の業務フローに深く入り込み、99%の精度を目指すような、泥臭くも高度なエンジニアリングが不可欠です。」

伊藤は、すでに日本のメガバンクを含む大型案件が始動しているほか、防衛領域での取り組みにも本格的に着手していると説明。さらに、その他の業界からも多くの関心が寄せられている状況を明かし、「R&Dで論文を書いて世界で認知されるだけでなく、日本の本当に困難な課題を解いてみたい。そんな想いに共感してくれる人に、ぜひ仲間になってほしい」と呼びかけました。


世界最先端のAI技術を社会実装する

続いて、Appliedチームの立ち上げをリードしてきた中郷孝祐(Kosuke Nakago)が登壇しました。前職で製造業向けDL開発や国産大規模言語モデル開発を経験した中郷が、Appliedチームの概要と働き方、そしてその魅力について具体的に語りました。

2024年3月に発足したAppliedチーム(事業開発本部)は、2025年のAIエージェントのブームの先も見据えながら活動しており、その戦略の核となるのが、金融(Finance)と防衛(Defense)の2領域に注力するGo-to-Market戦略があると語りました。

「銀行のコア業務に最初から取り組めるのは、Sakana AIの大きな特徴です。また、防衛領域は日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、急速なAI変革が求められており、日本のために貢献したいという創業者の想いから、この領域を選びました。」

Appliedチームは、R&Dが生み出す創造的なモデルや手法を、現実社会の課題解決に繋げる役割を担います。その活動は、以下の3つの強みに支えられています。

さらに中郷は、Sakana AIでApplied Research Engineer(ARE)として働く魅力を3点挙げました。

  1. 日本の最重要課題への挑戦:数年後の世界を見据えた大きなビジョンを描きながら、長期的に課題に取り組める。
  2. 技術的な最先端:「トップ1%の頭脳労働を解く」、難しくも面白い課題に挑戦できる。生成AIが好きなメンバーが集う環境で、R&Dの最新成果を試す機会も豊富。
  3. 幅広いスキルの習得:スタートアップの初期フェーズだからこそ、職務領域を越えてソフトウェアのデプロイまで関わるなど、多岐にわたる経験が積める。

最後に中郷は、「多様な専門性を持つメンバーが机を並べ、その場で質問し合いながら高速にPDCAを回す。だからこそ、ドメイン知識に根差した、本当に価値のあるアプリケーションを創り上げることができるのです」と締めくくりました。

Sakana AIでApplied Research Engineerとして働く魅力を語る中郷孝祐(左)と、Sakana AIの防衛領域の取り組みについて説明するApplied Research Engineerの加納龍一(右)


「防衛領域」の技術的挑戦

続いて、Applied Research Engineerの加納龍一(Ryuichi Kanoh)が、Sakana AIが注力するもう一つの柱、防衛領域における具体的なアプローチと技術的なやりがいを紹介しました。

Sakana AIが防衛分野に取り組む理由は、それが日本の最重要課題であり、AIが中核技術となっていく未来が見えているからです。また、求められる技術の難度が高く、当社の技術力を活かせる領域だと考えているためです。今、「防衛」という概念のスコープは広がっており、一般にイメージされがちな従来の陸海空の装備だけでなく、今日の防衛では、SNSなどを通じて相手の頭脳に働きかける「認知戦」といった新しい戦い方が生まれています。

例えば認知領域においては、単に情報を検索するだけでなく、新たな着眼点を見つけ出し、情報を分析して「この後どうなるか」という見通しを得て初めて、価値ある情報となります。あるいは、無人機を用いた監視・調査においても、オープンエンドな探索、エッジ実装、無人機の群制御、センサフュージョンといった技術が重要になります。ここには、Sakana AIのR&Dが得意とする技術群が多数活用できると考えられます。

このように、防衛領域には技術的に挑戦的な課題が数多く存在し、Sakana AIはそこにAIスタートアップとして参入していきます。挑戦は始まったばかりであり、進行中の案件はお話しできないものが多い中で、加納からは日米共同開催の防衛イノベーションのコンペティションで受賞した際の技術的取り組みの紹介が行われました。


AREとSWEが語る金融領域の開発

金融領域については、この領域の開発を社内で率いる一人であるApplied Research Engineer(ARE)の太田浩行(Hiroyuki Ota)が、なぜこの領域に挑むのか、そしてその開発の特徴を現場の視点から語りました。

金融領域に取り組む理由として挙げたのは、「インパクトの大きさ」「高い専門性」そして「信頼性への挑戦」です。

「100%の信頼性、と言われるとエンジニアは尻込みするかもしれませんが、私たちはそれを挑戦と捉えています。」

その挑戦を可能にするのが、①信頼できるデータソースの収集、②評価自体を自動化する継続的な改善サイクル、そして③最も重要な「ユーザーが言う100%の意味を、ドメイン専門家との協業を通じて紐解いていくこと」だと説明しました。

続いて、同じく金融領域に関わるSoftware Engineer(SWE)である栗城光博(Mitsuhiro Kuriki)が登壇し、Sakana AIにおけるSWEの役割を解説しました。ARE、PM(プロジェクトマネージャー)、SWEの3者が一体となって進む体制の中、特にSWEは「AI x セキュリティを意識したプロダクト開発」に責任を持つと述べます。

「例えば、Webを検索するAIエージェントでは、汚染されたデータソースにアクセスしてしまうリスクがあります。AREと協働して、AIのトレーサビリティ確保や悪意ある挙動の検知・ブロックといった対策の重要度は今後増すと考えています。」

また、Sakana AIのSWEは積極的にAI駆動開発を取り入れ、信頼性の高いAIを効率的に構築する挑戦も続けている、と話しました。

金融領域の開発について話すApplied Research Engineerの太田浩行とSoftware Engineerの栗城光博


AIエージェント時代の案件の進め方

続いて、先月(2025年7月)刊行された『現場で活用するためのAIエージェント実践入門』(講談社)の共著者でもあるAREの太田真人(Masato Ota)が、AIエージェント時代の案件の進め方について概説しました。

AIエージェント時代のプロジェクトで重要なのは、お客様の業務担当者の思考プロセスや業務に対する想いを、深く正しく理解することです。そのためには、担当者との信頼関係がなければ得られないような、本質的な情報も必要になります。また、開発者とお客様の間に生じる「AIで何ができるか」という具体的なイメージのギャップや、「やりたいことはあるが、そのためのデータがない」といった課題も、AIエージェント時代においてますます顕著になっていると、太田は語りました。

Sakana AIでは、豊富なネットワークと高い営業力を活かして案件を組成し、長期的なパートナーシップ契約によってお客様と深く関わることで、長期的な関係構築に注力しています。さらに、社内のメンバーが持つドメイン知識も活かし、実際に動くプロトタイプを迅速に作成してお見せすることで、プロジェクトをスピーディーに推進できると述べました。

太田は、Sakana AIの開発の特徴として「焦らないこと」を挙げました。目先の成果を急ぐのではなく、お客様とじっくり議論を重ねて本質的な課題解決を目指す姿勢が、チーム全体に浸透しています。前述のように、AREとSWE、そしてプロジェクトマネージャーがワンチームとなり、案件に集中する体制でプロジェクトは進行します。「Sakana AIのエンジニアは、自ら銀行業務に関する専門書を買い込むほど探求心が強い」と語りました。


R&DとBizのコラボレーション

最後に、AREのアルチョム(Artsem Zhyvalkouski)が、Sakana AIで非常に重要な「R&DとBizの連携」について語りました。

「Sakana AIはワールドクラスのR&Dラボです。そして私たちAppliedチームのミッションは、そのリサーチを社会実装すること。そのために、両者のコラボレーションは不可欠です。」

その連携は、経営層からのトップダウンではなく、ボトムアップの自由な交流がメインです。論文のリーディンググループや日々の勉強会だけでなく、「Fish Lunch」があります。これは、部門の垣根を越えて全社でランダムにグループ分けされる任意参加の週次ランチで、アルチョムは「素晴らしい機会」だと話します。過去には、このランチがきっかけとなり、ある研究者から執筆したばかりの論文について詳しく説明してもらった経験もあるそうです。 こうした機会を通じて、AppliedチームのメンバーがR&Dの論文レビューに貢献することもあれば、ビジネスサイドで得たニーズや課題が新たな研究テーマに繋がることもあり、活発で双方向のインタラクションが生まれています。

AIエージェント時代の案件の進め方について説明するApplied Research Engineerの太田真人(左)と、R&DとBizのコラボレーションについて語るApplied Research EngineerのArtsem


Q&Aセッション(抜粋)

当日は50を超える多くのご質問をいただきました。いくつか抜粋してご紹介します。

Q: ResearchとAppliedの業務は分離されているのでしょうか?

A: オープンな交流は活発ですが、それぞれのミッションは明確に分かれています。事業プロジェクトがR&Dのテーマを制約することはありませんし、AppliedチームもR&Dの技術を必ず使わなければならない、という制約もありません。ただし、例えばAI ScientistのEnd-to-End自動化のアイディアやノウハウは、Appliedのプロジェクトに大いに活かされています。

Q: 働き方は激務ですか?

A: 裁量労働制で、個人の裁量に任されています。子育て中で毎日18時前後に退社する社員もいますし、時間や曜日を問わず集中して取り組むメンバーもいます。仕事が好きなメンバーが揃っていることは事実ですが、会社として働き方を強要することはなく、個々人がパフォーマンスを最大化できる働き方を推奨しています。

Q: 金融・防衛以外の領域は考えていますか?

A: 現在検討中です。ありがたいことに製造業など他の業界からも多くのお問い合わせをいただいており、今後事業領域が広がる可能性は十分にあります。

Q: Fish Lunchでは魚料理以外も食べられる? 🐟

A: はい(笑)。虎ノ門のオフィス周辺で、様々なお店の美味しいランチを皆で楽しんでいます。

Q: ARE(Applied Research Engineer)は一人何案件くらい担当しますか?

A: 理想は一人一案件に集中してもらうことです。現在は立ち上げ期で複数案件に関わっているメンバーもいますが、今後皆さんにジョインしていただくことで、より一人が案件に注力できる体制にしていきたいと考えています。

この後の懇親会では、現地参加いただいた皆様とSakana AI社員が語り合い、会場が熱気に包まれていました。


共に挑戦する仲間を募集!

Sakana AIは、世界最先端のAI技術を、日本が直面する最も困難で、最も重要な課題の解決のために実装していくことを目指しています。今回のOpen Houseが、その挑戦の面白さや、社会へのインパクトの大きさ、そして共に働くメンバーの情熱を感じていただく機会となっていれば幸いです。

私たちは、この挑戦を共に推進していく仲間を心から求めています。当社のビジョンや事業に少しでも興味を持たれた方は、ぜひ採用ページをご覧ください。インターンも募集中です!

▶︎ 募集中のポジションはこちら: https://sakana.ai/careers



参加したSakana AIスタッフ一同