AIを駆使してAI実装を加速する:Sakana AI、Software Engineerインタビュー



はじめに

Sakana AIでは2025年、世界トップレベルの生成AI技術を社会実装するため、Applied Team(事業開発本部)を始動しました。国内外の主要パートナーとの連携が動き出し、業務のあり方を変えるような大きなインパクト創出を目指すプロジェクトが立ち上がっています。

現在の注力領域として、金融領域や防衛領域へのソリューション開発に取り組んでおり、最先端の生成AIやAI Agent技術を用いて日本の最重要課題の解決に長期的な視点を持って挑戦しています。チームには、国内屈指のテック企業や各業界をリードしてきたプロフェッショナルが結集し、Applied Teamは現在その規模を急拡大中です。

お客様とともに事業開発をリードするプロジェクトマネージャー、最先端のAIを使ったソリューションを生み出すアプライド・リサーチ・エンジニア(ARE)とともにAI開発を推進するのソフトウェアエンジニア職の採用を進めています。

本記事では、Sakana AIのソフトウェアエンジニアの働き方やその魅力を知っていただくことを目的として、AIの社会実装に挑む二人のメンバーのインタビューを掲載します。最先端のAI研究に日々触れ、自らもAIを使いこなしながら開発を続ける様子の一端を知っていただければ幸いです。



インタビューイー:

珊瑚 彩主紀
Mizuki Sango
Software Engineer

東北大学工学部を卒業後、東京工業大学の修士課程を修了(博士課程中退)。在学中にLINE株式会社や株式会社リクルートホールディングス等でインターンシップを経験し、エンジニアとしてのキャリアをスタート。 株式会社メルカリ、株式会社スパイスコード、JarvisML Inc.などで機械学習システムの開発・社会実装に従事。Python、Golang、Typescript、AWS、GCP、Kubernetes、分散処理(Apache Beam/Spark)など、多岐にわたる技術スタックに精通。2025年よりSakana AIにソフトウェアエンジニアとして参画。


岩井 龍之介
Ryunosuke Iwai
Software Engineer

中高時代は競技プログラミングに打ち込み、日本情報オリンピックで銀賞など複数の賞を受賞。京都大学情報学科で知能情報学を専攻し、新卒で株式会社メルカリのMicroservices Platform CI/CDチーム、株式会社Cloudbaseでのセキュリティスキャナー基盤の開発・運用を経て、2025年10月にSakana AIにソフトウェアエンジニアとして参画。インフラやセキュリティを中心にバックエンドの開発全般を担当。


なぜSakana AIへ? これまでのキャリアと現在のプロジェクト

━━ソフトウェア・エンジニアの珊瑚彩主紀(さんご・みずき)さんに聞きます。まずは、これまでのキャリアについてお聞かせください。

珊瑚:大学・大学院では機械学習を用いて自然言語処理の基礎研究していました。新卒で入社した株式会社メルカリでは、メルペイのローンチ期に機械学習を使ったアンチマネーロンダリングシステムを構築しました。 その後、メルカリアプリ側へ移り、画像・テキスト・テーブルデータといったマルチモーダルデータを用いた違反出品検知システムを構築していました。

入社と同時に博士課程にも進んだのですが、ユーザーに還元されるか分からない研究を進めるよりも、世の中で使われるサービスを作り込んでいきたいという思いが強くなったため、キャリアとして最終的に実務一本に絞ることにしました。 メルカリの後は、アメリカのスタートアップに転職し、eコマース向けにパーソナライズド検索や需要予測システムの開発リードなどを行っていました。


━━多彩な技術スタックをお持ちですが、Sakana AIへの入社を決めた理由は?

珊瑚: 海外で働きたいという思いが満たされた後、日本で勢いのある会社はどこかと探し、Sakana AIを選びました。 特にLLMやAIを積極的に活用している会社が良いと考えていました。前職では社内での知見共有が少なかったので、情報交換が活発な環境を求めていました。実際に入社してみると、皆が積極的にAIを活用しており、エンジニアリングの知見が広く活発にシェアされていると感じます。


━━現在はどのようなプロジェクトを担当されていますか?

珊瑚: 大手銀行とのパートナーシップで、銀行のコア業務をAIで自動化するプロジェクトにアサインされています。 ARE(アプライド・リサーチ・エンジニア)がお客様の業務をヒアリングし、専門性の高いドキュメントを生成するAIエージェントを構築しています。データは持ち出せないため、お客様のクラウド内で作業する必要があり、私たちSWE(ソフトウェアエンジニア)がその作業環境の構築・整備や、データ受領のためのシステム構築、AIアウトプットの評価システムの構築などを担当しています。

これまでの仕事では自社クラウド内での開発が中心でしたが、今回はお客様先のクラウド上に構築する必要がある点が大きく異なります。そのため、システムアーキテクチャや設計書も非常に高い精度が求められます。 また、お客様の情報をAIに読み込ませるうえでは高度なセキュリティの担保も重要です。そして何より 「サービスを落とせない」というエンタープライズの要求水準の高さ があります。行員の方の業務時間内は絶対に停止できないなど、toCサービスとは異なる緊張感がありますね。


━━同じくソフトウェアエンジニアの岩井龍之介(いわい・りゅうのすけ)さんにもお伺いします。岩井さんは中高時代から競技プログラミングで活躍され、ゲーム開発も経験されています。エンジニアになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

岩井: 元々はゲームが大好きで、プレイするうちに「自分で作りたい」と思ったのがきっかけです。パソコン研究部でゲームを作っていましたが、次第にプログラミング、情報科学そのものへ興味が移りました。 中高時代は競技プログラミングに熱中しましたが、徐々に「実際に動くもの」、世の中に価値を提供できるソフトウェア開発に比重が移っていきました。

ゲーム開発から始まり、徐々に社会インフラや「システム」そのものへ興味が移っていった感覚です。自分は「自己修復しながら動作し続けるシステムを作ること」に強く惹かれます。最近は情報システムだけでなく、社会制度のような社会システムがどう安定性を担保しているのか、といった点にも興味があります。


━━メルカリでのお仕事は「大きなシステム」作りという点で共通しますか?

岩井: そうですね。CI、つまりテストを自動実行する基盤の構築を担当していました。リクエストに応じてオートスケールする仕組みはシステムとして非常に面白かったです。 また、自分は「開発者の生産性向上」に強い興味があります。自分一人が頑張っても2人分ですが、1000人の組織の生産性を1.1倍にできれば100人分のインパクトが出せます。メルカリではセキュアで安定したCI/CD基盤の構築を通じて、そこに貢献しようとしていました。


━━岩井さんにとって、ChatGPTの登場がAI業界を目指すきっかけだったと伺いました。

岩井: 大規模言語モデルの登場は衝撃でした。ブレイクスルーはなんといっても、「知能」がソフトウェア化され、かつそれが自ら行動し、アクションを起こして自己改善できるようになった点です。これは、インターネットの登場と同じか、少なくとも同等以上のインパクトがあると思いました。今後エンジニアとして仕事をするならAIをやらなければならない、技術屋としてこの最先端に触れなければ必ず後悔する、と。

もう一つの全く別の軸として、自分が生まれ、生きていく日本に少しでも貢献できる仕事がしたいと元々考えていました。Sakana AIは「日本でAIの最先端の研究拠点を作る」という点で、その両者が交わる場所だと感じたのが入社の決め手です。


━━岩井さんの現在のプロジェクトはどのようなものですか?

岩井: 現在、プロダクトチームとして「フィードバックサイクルの自動化」、つまりAIエージェントの「自己進化」にチャレンジしようとしています。 背景として、現在のAIエージェント開発は、エンジニアがエージェントを組み、ユーザーからのフィードバックを得て改良する、という手動のサイクルで行われています。

これを抽象化すると「エージェントのアウトプットに対し、人間のフィードバックを得て、それにアラインするようにエージェントを組み換える」という流れです。 私たちは、究極的にはこのプロセス、つまりフィードバックを受けてエージェントが自身の構造を組み換える部分を自動化できると考えています。

鍵となるのは、「人間の評価基準」をどうモデル化するかです。人間の暗黙知的な反応をモデルで再現できれば、エージェント改善のサイクルをより高速で回せるようになります。この「人間の評価モデルの再現」は重要な研究テーマであり、リサーチチームの協力も借りながら一緒に取り組んでいきたいと考えています。


━━リサーチチームのプロジェクトにも参画されていますよね?

岩井: はい、いくつかあります。LLMの開発もその一つです。LLMの開発も、結局はフィードバックデータを集めて改善するというサイクルであり、エージェント開発と共通の枠組みで扱えるのでは、という興味から関わらせてもらっています。 現在、社内の試用のためにLLMをチャットUI経由で扱えるようにし、そこでフィードバックデータを収集・蓄積するという基盤開発を担当しています。

他にも個人的にいくつかのリサーチプロジェクトで声をかけてもらっており、実験用のサーバーを立てたり、デモアプリとして公開する際のサポートなどをさせてもらっています。基礎研究にエンジニアとして貢献できるのはこれまでの環境ではできなかった経験で、大きなモチベーションの一つになっています。




AI時代のソフトウェアエンジニア

━━AIエージェントの登場は、エンジニアの働き方をどう変えるとお考えですか?

珊瑚: ソフトウェア・エンジニアの仕事のうち、コードを書くだけの部分は最終的にAIエージェントに取って代わられると考えています。ただし、AIエージェントを使いこなすことは、例えるならジュニアエンジニアが4〜5人いて、彼らを自分がマネジメントしているようなものです。

これにより自分の生産性を2倍にも3倍にもスケールさせることができます。したがって、AIエージェントを使いこなせないソフトウェアエンジニアは生産性が低く、市場価値も下がっていくのではないでしょうか。 また、Sakana AIのソフトウェアエンジニアはフルスタックに担当しますが、当然ながら強み・弱みはあります。弱みを補うのも、AIエージェントのうまい使い方だと思います。

セキュリティ等の条件が許す場合、私は現在コーディングエージェントを複数使うことがあります。Claude Codeをメインで使い、ClaudeにGeminiのCLIやCodex(ChatGPT)を使わせています。簡単なコードを書かせる時は、自分のコードを参考にClaudeが作ってくれます。しかし、大規模なリファクタリングやシステムアーキテクチャの設計は、ChatGPTの方が優れていると感じているため、ClaudeにChatGPTと相談させながら考えさせています。Web検索が必要な場合は、Google製であるGeminiの方が情報収集力が高いので、Claudeを通してGeminiでWeb検索をし、得られた情報を基にClaudeに考えさせる、といったことを行っています。


岩井: AIエージェントの登場により、AI研究においても、むしろソフトウェアエンジニアリングの比重が高まっていると感じます。高性能なエージェントの構築には、ソフトウェアエンジニアリングの要素が強く求められます。

例えばエラー処理。エージェントの動作は確率的であり、従来のソフトウェア以上に頻繁に失敗したりタイムアウトしたりするため、エラーを適切にハンドリングし、確率的な挙動を安定した機能に落とし込む技術が必要です。

また、データパイプライン、つまりエージェントが動くための環境整備も非常に重要です。堅牢なシステムを構築することが、エージェントの性能そのものに直結します。良いエージェントを作るためには、信頼性と安定性のあるシステムを構築するソフトウェアエンジニアリングが、土台として不可欠になっています。


珊瑚: ソフトウェアエンジニアの未来として、プロジェクトマネジメントやエンジニアリングマネージャーのような役割をソフトウェアエンジニアが担い、コードの部分は全部AIエージェントが書く、ということも全然ありえるのかなと。

今から目指すのであれば、「ソフトウェアエンジニア」というよりは「システム開発者」だと思います。ただし、エンジニアリングのことをわからないとエンジニアを使う側にはなれないため、その知識は得る必要はあります。 学校で数学を習うみたいに、プログラミングをやっておいて欲しいけど、ゴールはそこじゃない。基礎科目として全部そういうの押さえた上で、AIを使いこなしてシステム作ってきましょうよ、というふうになるかなと思っていますね。


岩井: 珊瑚さんの言う通り、エンジニアはAIを「使う側」になりますよね。私は未来のエンジニアの役割として、3つの仕事が中心的に残っていくんじゃないかなと考えています。

1つは、今と一緒ですけど、エージェントのお世話をするというか、エージェントの作業環境を作ること。エージェントを動かすために計算リソースを割り当てたり、タスクに必要なデータを繋いだり、ツールを用意したり。エージェントが自由に泳げる環境を作る仕事です。

もう1つは、アイデア出しの共同作業。AIもアイデアを出してくるし、人間も出す。お互いアイデアを持ち合いながら、刺激を与え合いながら育てていく。実装する部分はAIの方が得意になっていくので、アイデアを出すことが中心的な仕事になるのかなと。

最後が「評価」です。結局、エージェント開発は「何に対して最適化するか」という最適化するスコアを決めるのが1番肝要です。 つまり、どの方向にAIを進化させたいのか、どういうAIを我々は望むのかっていう「方向付け」の部分は、人間が手放してはいけない部分であり、人間の中心的な仕事として残ると思います。




Sakana AIに入って良かったこと

━━Sakana AIに入社して良かったと感じる点は何ですか?

珊瑚: エンジニア「以外」の優秀な方々と働けることです。Sakana AIには一流のエンジニアが揃っているのはもちろん、金融、コンサル、官公庁出身といった、多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナルが集まっています。 お客様はエンジニアではない方も多いため、こうした社内の専門家と話すことで「非エンジニアの方はこのように考えるのか」という顧客理解が深まります。これはエンジニアとして非常に役立つ経験です。

岩井: よくわかります。 自分からは、AIに携わる環境として「AIが事業の本丸にある」点を挙げたいです。他の会社では、既存のプロダクトがベースにあるため、どうしても今のプロダクト起点で考える必要があります。AIを使うと言っても、社内の効率化や、ある意味「どうにかAIを使えないか」という発想になりがちです。

その点、Sakana AIはAIが事業の中心にあります。私たちが所属するApplied Teamにとって、「いかに顧客に満足してもらえる、優れたエージェントを作れるか」が事業の要です。ある意味、最強のAIを作ることに集中すれば良いという、AIのことをやるには非常に良い環境だなと思います。

━━Sakana AI独自の技術についてはどう感じていますか?

岩井: Sakana AIは社名にもある通り「自然にインスパイアされた人工知能」にリサーチのフォーカスを当てており、進化的モデルマージやDarwin Gödel MachineShinka Evolveのような研究がその代表例です。 これらの「自己進化」の技術は数学やコーディングなどのスコアが定量化がしやすい領域では成果を上げていますが、Applied Teamで取り組んでいるビジネス領域での多くの問題はより定量化が難しい「ファジー」なタスクです。そうしたタスクにおける進化的手法の応用はリサーチのフロンティアであり、まだ完全に成功を収めているプレイヤーはいません。

これらの領域でSakana AIの技術の強みが生かせるかどうかが、会社にとっての1つの大きなチャレンジだと思います。我々には(1)お客様の課題と日々顔を突き合わせて取り組むクライアントチーム、(2)世界を代表するリサーチチーム、そして(3)株主から期待とともに預かっている大きな資金があり、そこにチャレンジできる数少ない企業だと感じています。簡単ではないですが、きっと成し遂げられると思います。




これからやりたいこと

━━今後、どのような仕事や開発に取り組みたいですか?

珊瑚: 関わる人全員がWin-Winになる仕事をしていきたいと考えています。 AIを使って社会の変革とは逆の方向のものを延命させるのではなく、本当にみんなが便利になるような新しいサービスを作っていきたいです。その「みんな」には、システムを開発する側も、提供する側も、利用する側も含まれます。 利用する側と提供者側がWin-Winなだけでなく、開発する側もWinであるべき です。事業の人は提供者側のWinは考えますが、開発者側のWinは考えていないと感じることがあります。

開発者やプロジェクトマネージャーにどのような負荷がかかっており、それが最終的な製品にどのような影響を及ぼすかといった点は考慮しきれてない。そこまで含めて考えるのも重要なポイントかなと思います。 だからこそ、いろんな属性の人がいる場所に身を置いて、普段からいろんな話することが大事だと思います。それがこの会社で引き続きできるとよいです。

岩井: **珊瑚さんの「開発者のWin」という視点は、AIエージェント開発におけるフィードバックサイクルにも通じる話ですね。自分は引き続き、エージェントが自身の構造を組み換える「自己進化」の社会実装に挑戦していきたいと思っています**。クリアしなければいけないハードルはたくさんありますが、珊瑚さんの話にもあるように、エンジニア、リサーチャー、ビジネスメンバー含め、社内の多様なメンバーと話をして、幅広い知見を借りながらチャレンジを進めていきたいです。

━━お二方、どうもありがとうございました!




募集要項

Sakana AIのソフトウェアエンジニア2名のロングインタビューはいかがでしたでしょうか。

今回の2名を含む多彩なメンバーが、最先端のAI技術の社会実装に取り組んでいます。引き続きメンバーを募集していますので、ご関心のある方は、ぜひ当社の募集要項をご覧ください。

Sakana AI採用情報:https://sakana.ai/careers/