金融領域の業務をAIエージェントで変える:Sakana AI、Software Engineerインタビュー


Sakana AIは自然界の集合的知性から着想を得たユニークな生成AI技術の研究開発を行っています。この世界トップレベルの技術を社会に実装するため、2025年初頭にApplied Teamを始動しました。現在注力しているのは、金融や防衛など、社会の基盤となる分野です。

その中でも金融分野は、AIエージェントの導入により業務の根幹が変わろうとしています。では、その変革の現場でSoftware Engineerは何をしているのでしょうか。本記事では、金融領域で開発に携わるSoftware Engineerの酒井将汰と、エンジニアチームのマネージャーを務める本田勝寛へのインタビューを通じて、その働き方とその魅力をご紹介します。



インタビューイー

本田 勝寛
Katsuhiro Honda
Software Engineer

2017年にリーガルテックスタートアップで取締役CTOを務め、複数サービスの立ち上げや開発組織の内製化を推進。2020年からDigital GarageにてExecutive ManagerやSenior Executive Engineerとして、大手金融機関との共同開発や長年運用されてきたシステムの大規模モダナイズをリード。Sakana AIのSoftware Engineerとして2025年8月入社。朝型・子供3人、AIを活用しながら柔軟な働き方を模索・実践中。


酒井 将汰
Shota Sakai
Software Engineer

2016年にアクセンチュアへ入社し、金融業界にて基幹システムの要件定義から運用までを一貫して経験。大手生命保険会社の大規模モダナイゼーションでは、複数システムのマイクロサービス化やオンライン契約基盤の刷新のPJを推進し、アーキテクチャ設計から開発・運用まで横断的にリード。2023年にfreeeへ参画し、技術負債の解消や既存プロダクトの運用開発、および新規サービスの立ち上げなどに従事。2025年11月にSakana AIへ入社し、Software EngineerとしてAIプロダクトのフルスタック開発を担い、金融系のPJにてアプリケーションからインフラまで一貫した開発やデリバリーを推進中。



これまでの歩み——多様なキャリアがSakana AIに集まる理由

――これまでのキャリアを教えてください。

酒井: これまでのキャリアでは、金融領域の大規模システム開発を軸に、オーナーシップを持ったプロダクト開発やAI領域へと経験を広げてきました。新卒でアクセンチュアに入社し、基幹システムのフルスクラッチ開発やBIの運用保守、要件定義から運用まで幅広く経験しました。印象的だったのは大規模モダナイゼーションのプロジェクトで、複数システムのマイクロサービス化やオンライン契約基盤の刷新に、アーキテクチャ設計から開発・運用まで横断的に携わりました。その後は、freeeで自社開発のプロダクトの運用開発や技術負債の解消、新規サービスの立ち上げなどに満遍なく従事してきました。現在はSakana AIでSoftware Engineerとして、金融系プロジェクトを中心にAIプロダクトのフルスタック開発を担当しています。これまで培ってきた金融・大規模システム・プロダクト開発の経験を活かし、新しいAIプロダクトづくりに取り組んでいます。

本田: エンジニアのキャリアとしては、インフラエンジニアからスタートし、その後はアプリケーション開発にも領域を広げてきました。toC、toBのサービス開発に加えて、官公庁向け案件など、規模や性質の異なるシステム開発を経験してきたため、インフラからアプリケーションまで横断して見られることが自分の強みだと思っています。実はキャリアの最初は総合商社の文系職で、学生時代には広告代理店で営業も経験していました。実家が商売をしていた影響もあるのか、一貫して”数字として成果を出すこと”に喜びを感じるタイプで、その感覚はエンジニアになってからも変わっていません。そのため、単に技術的に面白いものを作るだけではなく、事業や顧客価値にどうつながるかを意識しながら、スタートアップやtoB色の強いサービスの中で成果を出してきた感覚があります。


――バックグラウンドが異なるお二人が、Sakana AIに入社した理由は何でしょうか。入社前に不安だったこと、入社して想像と違ったことなどもあれば教えてください。

酒井: AI Agentの進化が非常に速い中で、開発者としてこの変化に正面から向き合いたいという思いがあったからです。これまで開発者としてAIに触れる機会はありましたが、AIを単なる開発支援ツールとして使うだけでなく、実際の業務やシステムの中にどう組み込み、どう開発・運用していくのかについては、まだ大きなチャレンジがあると感じていました。特にAI Agentは進化のスピードが速く、ソフトウェア開発や業務のあり方自体を大きく変えていく可能性がある一方で、実際の業務に適用するには、信頼性や運用性、既存システムとの接続など、解くべき課題も多いと感じていました。そうした中で、AIを実験的な技術としてではなく、実際のプロダクトや業務価値につなげていく現場に身を置きたいと思い、Sakana AIに惹かれました。入社前は、Software Engineerとしてアプリケーションからインフラ、AIまわりまでフルスタックに関わる中で、すべてを高いレベルで対応できる必要があるのではないかという不安もありました。ただ実際に入社してみると、もちろん求められる範囲は広い一方で、最初からすべてを完璧にできることよりも、必要なことをキャッチアップしながらオーナーシップを持って進めることが大事だと感じています。これまでの金融・大規模システム開発の経験を活かしながら、AI Agentを実際の業務やプロダクトにどう適用し、安定して価値提供できる形にしていくのかに取り組めている点に、大きな面白さを感じています。

本田: ソフトウェアエンジニアの働き方は、AIコーディングの登場によって大きく変わっていくと感じていました。その中で、AIをコアに据えた企業で、ソフトウェアエンジニアとして早い段階から働き方を変えたいと思ったのがきっかけです。また、Davidと話した際に、現状のAI業界の過度なブーム感を追うのではなく、難易度は高くても大きな市場に対して地に足をつけて向き合い、世の中に価値を提供していく、という意思を感じました。そこが自分の考え方とも合っていると思い、入社を決めました。入社前は、研究色の強い会社なのかなというイメージもありましたが、実際に入ってみると、想像以上にお客様志向とチームワークが重要だと感じています。金融機関など大きな顧客と向き合う中で、エンジニアだけではなく、Biz、PM、Applied Research Engineer、Researcher など様々なロールと連携しながら進める場面が多く、技術力だけでなくチームで成果を出す力が求められる環境だと思いました。




AIエージェントを金融の現場に組み込む——プロジェクトの内容と技術的な課題

――具体的にはどのようなプロジェクトに関わっていますか?

酒井: 現在は、銀行の融資業務をAIエージェントで支援するプロダクト開発に携わっています。融資業務は、お客様の情報や財務データ、事業内容などを収集・整理し、分析したうえで、稟議書などの資料に落とし込んでいく複雑な業務です。私たちは、その一連のプロセスを行員の皆様の隣で支援するAIエージェントやそれらを安全に動かすプラットフォームの開発をしています。具体的には、初期分析や情報整理、財務シミュレーション、稟議書ドラフトの作成などをサポートします。AIが判断を置き換えるのではなく、分析や資料作成の負担を減らし、行員の皆様がお客様との対話や重要論点の検討に集中できる環境をつくることを目指しています。

――技術面での難しさや、通常のWebアプリ開発との違いはどのようなところにありますか?

酒井: 技術的に難しいのは、AIエージェントを実業務に組み込むための品質基準や開発プロセスを、金融領域ならではの制約の中で作っていくことです。通常のWebアプリケーションでは、入力や期待される出力が比較的明確で、テストや品質保証も組み立てやすい部分があります。一方で、AIエージェントはプロンプトやコンテキスト、モデルの挙動によって出力が変わるため、「何をもって業務上十分な品質とするか」を定義すること自体が重要になります。また、金融領域ではセキュリティ、クラウド環境、既存システムとの接続などの制約も大きく、複数の環境や運用要件を踏まえながら、安全かつ安定してAIエージェントを提供できるアーキテクチャを考える必要があります。

こうした違いがあるからこそ、設計におけるアプローチも異なってきます。AIエージェントが動くことを前提に、UI/UX、評価方法、アプリケーションの責務分解まで一体でデザインする必要があるからです。

具体的には、AIにどの情報を渡すのか、どこまでAIに任せるのか、どこから人間やアプリケーション側で制御するのかを丁寧に分ける必要があります。モデルを呼び出して結果を表示するだけではなく、コンテキスト管理、ツール実行、権限管理、監査ログ、人間による確認ポイント、エラー時のリカバリーまで含めて設計する必要があるところに、難しさと面白さを感じています。

――意思決定のスピードや、自分の裁量で動ける範囲についてはいかがですか?

酒井: 仕事の進め方や意思決定のスピードは、これまでと比べてもかなり速いと感じています。Sakana AIはAIネイティブな企業なので、AIを既存の業務プロセスに後から当てはめるのではなく、AIを使うことを前提に仕事の進め方が設計されています。過度に恐れすぎることも、過小評価することもなく、AIが自然に業務の中に組み込まれている印象です。

普段の開発においても、AIをさまざまなシーンで活用しています。当然ですが、AIに丸投げするのではなく、明確な指示設計や検証環境、サンドボックスでの実行など、組織として情報ガバナンスや品質を担保する仕組みを大前提としています。

そのうえで、人間はアーキテクチャ設計や仕様判断、コードレビュー、品質やリスクの見極めに集中します。AIに任せられる部分は任せ、人間が見るべきところをしっかり見ることで、開発スピードを大きく上げられる環境だと感じています。また、AIによって効率化されているからこそ、個人に任される裁量や見るべき範囲は広がっています。自分の担当領域だけでなく、プロダクト価値、ユーザー体験、技術的な実現性、セキュリティ、運用性まで含めて判断する機会が増えており、前職と比べても自分の判断で動ける範囲はかなり広がったと感じています。

――チームの構成について教えてください。どのようなメンバーが集まっているのでしょうか。

本田: 私が現在マネージしているロールには、大きく分けてSoftware EngineerとSolution Engineerがあります。Software Engineerは、基本的にはフルスタックに動くメンバーが多く、プラットフォームやプロダクトなど、よりコアで汎用的な領域に責任を持っています。単純な実装だけではなく、アーキテクチャ設計や開発生産性、共通基盤なども含めて広く見ることが多いです。また、PoCレベルのシステムを、実際に大企業で運用可能なエンタープライズ品質まで引き上げることも重要な役割です。Applied Research EngineerやSolution Engineerと連携しながら、アプリケーションだけではなく、インフラなども含めて継続的に改善し、実運用に耐えられるシステムを作っていくことが求められます。一方で、Solution Engineerは、実際のお客様環境への導入やインテグレーションに責任を持つロールです。特に金融機関や大企業では、セキュリティ、ネットワーク、運用など様々な制約があるため、それぞれの環境に合わせてシステムを成立させる役割を担っています。バックグラウンドもかなり多様で、Web系出身のエンジニアだけではなく、データサイエンティスト、SIer、クラウド、SRE、プロダクト開発など、それぞれ異なる強みを持ったメンバーが集まっています。そのため、専門性を持ちながらも、ロールを越えて協力しながらプロジェクトを進める文化が強いチームだと思います。

――チームメンバーに期待することを聞かせてください。

本田: 短期的には、Applied Teamとして、お客様へのデリバリーをしっかりやり切ることを期待しています。特にエンタープライズ領域では、実際の運用や制約の中でシステムを成立させる必要があるため、技術だけではなく、お客様や周囲のロールと連携しながら最後までやり切る力が重要だと思っています。一方で、中長期的には、個別プロジェクトの中で得られた知見を、プラットフォームやプロダクトに還元していくことも重要だと考えています。単に案件ごとに閉じるのではなく、デリバリーの現場で得られたフィードバックをもとにプラットフォーム化・プロダクト化し、改善サイクルを回していくことを期待しています。また、そのプロセス自体をAIによって改善し、開発・運用コストを下げていくことも重要なテーマです。実際に活躍しているメンバーは、単純な実装力だけではなく、お客様、プラットフォーム、プロダクト、運用、組織改善まで含めて横断的に考えられる人が多いと思います。




これからのSakana AIとキャリアの展望

酒井: 今後は、Sakana AIの技術やプロダクトを、日本におけるAI活用のデファクトスタンダードといえる存在に育てていきたいです。その中で目指したいのは、AIのためのソフトウェアではなく、人が自然な業務の流れの中でAIと協業できるソフトウェアです。必要なタイミングでAIが支援し、人が判断し、次のアクションにつなげられる体験を、UI/UX、アプリケーション設計、セキュリティ、評価・運用まで含めて実現していきたいです。また、AIの業務活用はまだ正解が固まりきっていない領域だからこそ、私たちだけで完結するのではなく、お客様の現場から学びながら一緒に育てていくことが重要だと考えています。プロダクトも私たち自身も、お客様と共に成長しながら、まずは日本企業に自然に選ばれる存在にし、その先でグローバルにも通用するものへ成長させていきたいです。

本田: グローバル基準で見ても優秀なメンバーが集まっているので、そうしたメンバーと一緒に、試行錯誤そのものを楽しみながら新しい開発の形を作っていきたいと思っています。特に、AIによってソフトウェアエンジニアの働き方や開発プロセス自体が大きく変わっていく中で、単純にAIツールを使うだけではなく、組織やプロセスまで含めてどう変えていくべきかというテーマには強い関心があります。また、エンタープライズ領域では、PoCだけではなく、実際にお客様に使われ続けるシステムとして成立させる必要があります。それに加えて、デリバリーの現場から得られる知見を、プラットフォームやプロダクトに還元しながら、継続的に改善できるチームを作っていきたいです。




お二人の話を通じて印象的だったのは、「最初からすべてを完璧にできることよりも、オーナーシップを持って進めることが大事」という酒井さんの言葉と、「技術力だけでなくチームで成果を出す力が求められる」という本田さんの言葉でした。これらは、個人の推進力と、エンタープライズ領域で価値を届けるためのチーム連携という、AIプロダクトの社会実装に不可欠な両輪を示しているようです。

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